明治00年創業 呉服と小物の店 特選呉服 結城屋

全日本きもの研究会 ゆうきくんの言いたい放題

Ⅶ-ⅻ 着物との本当の付き合い方とは(その7)

ゆうきくんの言いたい放題

第三に、着物の取り扱い方である。

着物は高価でデリケートで、取扱い、メンテナンスが難しい、というのが今の人達の着物に対する認識ではなかろうか。

私たち呉服屋も着物を壊れやすい宝石の様に扱い、シミを付けぬ様、キズを付けぬ様最新の注意を以て扱っている。特に一越縮緬の友禅の訪問着や塩瀬の染帯は汚さぬように、折傷を付けない様気を付けている。唐織や浮き糸のある帯は糸を引っかけぬ様気を遣う。

また、仕立は正確な寸法で仕立てることはもちろん、絵羽であれば柄がぴたりと合うように、小紋であっても柄付けによっては全体的に柄がどこかに寄ってしまわない様に考えながら仕立てている。

高価な着物は取扱いや仕立てに気を使わなければならないのは、それを売る呉服屋では当たり前に求められる姿勢であり、高価な着物を購入するお客様にとってはそれを求めるのも当然である。

しかし、昔は日本人皆が着物を着ていた。貴族から庶民にいたるまで。また、普段でも晴れの場でも着物を着ていた。庶民が普段に来ていた着物はどのような着物だろう。そして、その着物はどのように扱われていただろうか。

その基準から言えば、今呉服屋で売られている着物の大半が貴族が来ていたような、又は庶民が晴れの場で着ていた着物と言える。加えて、昔庶民が来ていた着物、例えば結城紬や大島紬等は、その希少性や人件費の高騰による価格の上昇により、普段着ではあるけれども貴族が着る着物あるいはそれ以上高価な着物になっている。

そういう意味で、昔庶民が普段に来ていた着物と言えるものは、今ほとんど呉服屋の店頭からは消え去ってしまった。私の店ではネルやセル、メリンス、綿反など扱っているが需要は非常に少ない。中でも庶民の着物であっただろう会津木綿などの一万円以下で買えるような綿反の仕立てはほとんど注文がない。

本当の意味での「普段着の着物」と言うのは、もはや絶滅したと言っても良い。従って「普段着の取り扱い、仕立て」と言うのはなくなり、全ての着物が宝石を扱うような姿勢を求められている。

さて、このお客様には晴れ着を納めたこともあるが、その時はもちろん他のお客様同様に大切に納めさせていただいている。しかし、このご主人の普段着の場合、私は昔の呉服屋になったような気がしてしまう。

蔵の隅に眠っている反物を持ってきては仕立てを頼んでゆく。長年蔵の隅に眠っていた反物は汚れやヤケ、たまには引っかけたキズがあったりする。長年着古した普段着の仕立て替えを頼まれれば、擦り切れやキズ、古いシミなどいくらでもある。

余りに古い反物は洗って汚れを落とし、時にはカビを払ったりする。仕立て替えの時には洗い張りをして仕立てる。それらの生地は、まともな反物から見れば明らかに難物である。もちろん新品として売ることはできないし、宝石のような着物ばかりを見ている人には着るに値しない着物かもしれない。しかし、昔はこういった着物を大切に仕立てを繰り返して着ていたのである。

仕立てる前にはこのご主人に、キズやヤケ、取れないシミがあれば説明する。そして、「難のある場所は下前の目立たないところに」とか「裏側の方がきれいなので裏返しに仕立てます」とか「袖口が擦り切れていますので左右逆にします」「身丈が足りないので別布を帯で隠れる部分に継ぎます」と仕立て方を説明します。

これらの仕立ての技は、宝石のような着物達にとっては屈辱的かもしれない。あるいは「呉服屋がごまかして仕立てた」と言われるかもしれない手法である。しかし、そのご主人は、「ああ、結城さんの思うとおりにやってください。普段に着られれば良いですから。」と、一向に気にしない。

私は普段着だからと言って仕立てに手を抜く気はさらさら無いし、如何に難を目立たせないか、むしろ正反よりも仕立てには気を遣う。実際にこのような仕立てでも難が目につくことはほとんどない。下前に汚れがあっても捲くって見なければ分からない。やむを得ず剥がなければならない時でも外から見える場所には剥がない。着物の機能として何ら問題はないのである。

本人にしてみれば、機能的には仕立て替えによって新品同様となり、また何年も着る事になる。おそらく洋服よりも安いだろう。いや、本人は安いとか高いとかの感覚ではなく、自分が着たい着物をごく当たり前に仕立てや仕立て返しただけなのだろう。着物と実に自然に付き合っているように思える。

私は、このようなお客様に出会うと呉服屋の原点に戻ったような気がする。

つづく

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